慣性力は難しい?問題を解くコツをわかりやすく解説!



慣性力は力学の中で特にニガテとする人が多いジャンルです。

本記事を執筆する前にYoutubeでの慣性力の解説動画をアップしていたのですが、力学の分野で1番の再生数を記録しています。それだけ苦手とする人が多いということでしょう。

ですが苦手とする人は「慣性力の正体」を知らないから苦手なだけであって、実際はそこまで難しいものではありません。管理人も現役生の時は慣性力は苦手だったのですがその正体に気づいた瞬間「なんだ!こんなに簡単だったの!?」と拍子抜けしてしまいました。

本記事では例題を交えながら、慣性力の正体とその問題を簡単に解ける解法についてお伝えしていきたいと思います。



慣性力とは?

電車が急ブレーキをかけると、乗っている私たちは進行方向に引っ張られるように前のめりになってしまいます。また、ジェットコースターが滑り降りるとき、お腹の中がふわっとした感覚になって後ろに引っ張られます。これらの現象は日常的に様々な場面で体感することができますが、これらの現象は全て慣性力と呼ばれる力によって引き起こされています。

慣性力とはそもそもどんなものなのでしょうか?その定義は以下の通りです。

慣性力とは
観測者が加速度aで運動している時、観測する質量mの物体には観測者の運動の向きとは逆向きにmaの力が働いている。この力を慣性力と呼ぶ。

観測者自身が加速をしながら運動しているとき、その観測者にはmaの力が進行方向と逆向きに力が働きます。

例えば図のように、電車に乗っている人が同じように乗っているカバンと犬を観測したとしましょう。このとき電車が加速度aで加速しているのであれば、それぞれの物体には進行方向とは逆向きにmaの慣性力が働いています。
乗り物が急発進した時に体が引っ張られるのは、この慣性力が働いているためなんですね。

慣性力の正体

慣性力ってそもそもなんで働くのでしょうか?実は慣性力というものは実際には存在しない力です。
「え!?でも乗り物に乗っていると引っ張られる感じがするじゃない!?」そう思ったあなたも間違っていません。慣性力はある視点から見ると存在もするし、別の視点から見ると存在しなくなります。なんだか哲学みたいな話になってきましたが、どういうことかわかりますか?

慣性力というのは、観測者の視点によって存在したりしなかったりする力です。図を使って詳しく説明しましょう。

例えば、図のように加速度aで水平方向の右向きに走っている電車の中に質量Mのカバンが乗っているとしましょう。それを電車の中に乗っている観測者Aと電車の外から観測している観測者Bのそれぞれの視点で運動方程式を立ててみます。

観測者Aの視点

まず、観測者Aの視点を考えてみましょう。観測者Aの視点からすると、カバンは観測者Aと一緒に電車に乗って移動しているわけですから、電車の中で静止しているように見えています。

電車の中でカバンが静止しているということはつまり、電車の中でカバンの力は釣り合っているというわけです。カバンは電車からの力を受けて移動を続けているわけですから、水平方向には床からの摩擦力Fを受けています。

ですが、電車の中ではカバンは静止したまま、つまり合力がゼロの状態なので、この摩擦力と釣り合っている力がないといけません。その力が慣性力なわけです(ちなみに鉛直方向は重力と垂直抗力が釣り合っています)。

これにより、水平方向の右向きを正としてカバンの運動方程式を立ててみると下記の①式が立ちますね。

F-Ma=0……①

観測者Bの視点

では次に観測者Bから観測したカバンの運動方程式を立ててみましょう。カバンは電車と一体になって加速度aで水平方向に運動をしています。

よって、観測者Bから見たカバンの運動方程式は②式のようになります。

F=Ma……②

これ、それぞれの式を見比べて見ると、①式を変形した式が②式になりますよね。つまりそれぞれの観測者から見たカバンの運動は、実は全く同じ運動をしていたということ。慣性力はあくまで観測者Aからみた見かけだけの力であって、2式はどちらも同じ式です。

慣性力はややこしいと感じてしまう人が多いですが、実は単純に観測者の視点が違うだけで、今まで学んできた運動方程式と同じ式を扱っているんです。この考え方はものすごく大切ですので覚えておいてください。


慣性力ってなんで必要なの?

「結局同じ式を扱うんなら慣性力なんていらなくない?」と疑問に思う人もいるかもしれませんね。確かに、慣性力を導入するかしないかが観測者の視点の違いだけなのだとしたら、別に静止している人から見た物体の運動方程式を立てても問題はとけます。

なぜ慣性力という概念が必要なのでしょうか?なぜなら慣性力は「加速する運動系の中で、さらに加速する物体の運動を考える」時に威力を発揮するからです。

例えば加速する電車の中でボールを投げたり、上昇するエレベーターの中で物体を落としたりする場合など、観測者自体が運動している状態で運動する物体を観測する場合に慣性力はものすごく便利なツールです。習うより慣れろなので、例題で実践してみましょう。

例題

慣性力の例題
加速度aで上昇するエレベーターの中で手に持っていた質量mのボールを離した。手から床への高さをhとした時、ボールが床まで到達するまでの時間tを求めよ。ただし重力加速度gとする。


※制限時間は10分です。実際に解いてみてから下の回答を見ることをお勧めします。

回答

では回答です。

運動するエレベーターの中でボールを落とすというややこしい問題ですが、慣性力をうまく活用することで簡単に解くことができます。この問題では、まずエレベーターに乗っている観測者から見たボールの見かけの加速度を設定すると良いです。

エレベーター内でのボールの見かけの加速度をa’としましょう。鉛直方向の下向きを正とした時、エレベーター内での観測者からみた運動方程式を立ててみます。

mg+ma=ma'

この式を見たとき「あれ?慣性力ってマイナスじゃないの?」と思った人はまだ慣性力をきちんとできていないので、もう一度本記事を最初から読んでみてください。
慣性力は「加速度の向きとは逆に働く見かけ上の力」です。今回は鉛直方向の下向きを正としているので慣性力は正になるわけです。

では話を戻しましょう。上記の式からmを消去すると、見かけの加速度a'が求まります。

a'=g+a……①

この時、エレベーター内の観測者から見るとボールは加速度a'で自由落下しているとみなすことができます。よって自由落下の公式から

h=\frac{1}{2}a't^2……②

あとは②式に①式を代入して、変形してあげれば地面に落下するまでの時間tが求まります。

t=\sqrt{\frac{2h}{g+a}}

このように、加速する運動系の中で運動する別の物体を考える時に効力を発揮します。

 

本記事を動画でわかりやすく解説

本記事についてはこちらの動画でも解説していますので、ぜひご覧ください。

 

まとめ

まとめ
  • 観測者が加速度aで運動している時、観測する質量mの物体には観測者の運動の向きとは逆向きにmaの力が働いている。この力を慣性力と呼ぶ。
  • 「加速する運動系の中で加速度運動をしている物体」の問題で威力を発揮する!

慣性力はコツさえつかめれば簡単に解ける分野です。苦手な人が多い分、得点源にできれば大きなアドバンテージになりますのでぜひマスターしましょう。
本記事の例題を参考に慣性力の問題はたくさん解いてみてください。習うより慣れろです。

力学についてさらに詳しく勉強したい方は、こちらのまとめ記事をぜひ参考に↓↓↓

【力学についてもっと詳しく学ぶ】
力学の要点まとめ【物理の偏差値を上げる方法】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です