物理の一番の鬼門となるのが記述問題の回答です。
記述問題はその回答の単語ひとつひとつのチョイスの仕方次第で得点が10点20点は平気で変わってしまいます。
記述問題を攻略するための、他の受験生との差がつくポイントをまとめました。
目次
得点力に差がつく記述式問題
まず、物理という科目は生物や化学など他の理系科目と比べて暗記すべき項目が圧倒的に少ないです。人間である以上、どんな人でも覚えていることを忘れるので、暗記科目は定期的に勉強を続けなければいけませんが、その点で物理は一度解法のコツをマスターしてしまいさえすれば、そこまでストイックに勉強をしなくても得点源となってくれます。
一方で暗記が少ない分「きちんと原理原則が理解できているか」で大きな差がつくのが物理です。公式や定理がそもそもなぜ成り立つのか、その根本的な理由をきちんと理解できていないと苦戦してしまうでしょう。
物理は他の理系科目と違って「公式や定理を覚えれば一定以上の得点が取れる」という類のものではありません。物理好きになるか嫌いになるかの違いがまさしくそこで、「公式や原理をそのまま覚えよう」といった教え方をする高校の先生に当たってしまった受験生の多くが、その言葉を鵜呑みにして勉強して全く問題が解けずに物理が嫌いになったり、物理に対しての苦手意識を持ってしまいます。
そういった高校物理の性質から「原理原則がきちんと理解できているかを問う問題」、つまり「記述式問題」で高校物理の得点の差が大きく出てしまうのです。
物事のルールを説明するのが物理の役割
そもそも物理学という学問がなぜ発明されたか?という根本的な話をここでしておきましょう。ちょっとマニアックな話ですが、記述問題の得点をアップさせるための重要なエッセンスです。
物理学という学問は「物事のルールを説明するために発明された学問」です。物理という単語は物(モノ)の理(ことわり=ルール)と書きますから、まさしくその名前の通りの学問と言えます。物事のルールを誰でもわかるように説明するのが物理学の役割で、その役割を果たすために数式や公式を使ってその現象が起きる理由を説明します。
例えばリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見したニュートンの昔話が有名ですが、ニュートンはリンゴが落ちるという運動を誰でも理解できるように運動方程式という公式を使って説明をしました。
例えばあなたの目の前でリンゴが落ちたとしましょう。
・真っ赤なリンゴが落ちた。
・リンゴが落ちて潰れた。
・リンゴが落ちた。美味しそうだった。
これらは全て事実ですよね。ですがこれらは全て物理的にリンゴが落ちたという現象を正しく説明できたとは言えません。なぜなら上記の説明には「主観的な意見」がそこに混じっているからです。物理の知識を使うことで、こういった現象を「普遍的な事実=誰がどう説明しても同じ事実」として説明できるようになります。ちなみにリンゴが落ちることを物理的に正しく説明するとしたら「リンゴが重力加速度を受け自由落下した(空気抵抗は無視する)」と書くのが正解です。
大学は即戦力となる優秀な学生を求めている
大学受験の問題を作っているのはだれか、あなたは知っていますか?受験問題作成専門の企業や職人がいて、毎年新しい問題を作っているのでしょうか?
実は、大学受験の問題は全てその大学の教授が作っています。教授が自分が教えるのにふさわしい学生を、自らの手でふるいにかけるために受験問題を作っているのです。
教授の立場から考えてみてください。果たして大学教授は公式を暗記しただけの、原理原則をきちんとわかっていない応用力のない学生を本当に欲しがるでしょうか?違いますよね。物理の原理原則をきちんと理解した、自分の研究にプラスになるような大学に入ってからも即戦力となる学生をほしがるはずです。募集人数が受験者数を上回るようなFランクの大学なら名前を書いただけでも合格できるかもしれませんが、倍率が何倍もあるような大学であれば中途半端な学力の受験生は生き残れません。
ちなみに問題の添削も教授自身が行なっていますから、いい加減な回答をした学生は即不合格のハンコを押されてしまいます。
特に国公立大学は絶対に記述式の問題が出題されますから、国公立大学を目指す受験生は必ず記述問題を攻略できる能力をかならず身につけなければなりません。
理系科目の中でも高校物理については、公式を覚えるだけでは大学に合格することはできないんです。
記述力がつけばどんな問題でも必ず解ける
逆をいえば「記述力がある=物理の原理原則をきちんと理解している」と言えます。つまり一定の記述力さえあれば、大抵の高校物理の問題は解くことができるということです。
記述式問題に限らず大学高校物理の問題は、基礎知識をベースにどのようにその知識を使うかの思考力を問われる問題が非常に多く出題されます。計算過程を省いて答える形式の問題でもその答えを導き出すまでの知識の組み立て方は変わりませんから、「記述問題を制するものは物理を制す!」と言っても過言ではないんです。
ではどのような注意をすれば、記述式問題の得点をアップできるのか?最も重要な2つのポイントを解説していきましょう。
差がつくポイント1:「前提条件を記述する」ことで他と差がつく
記述式問題は「自分は原理原則をきちんと理解していることを添削官=教授にアピールする」ことで他の受験生と差がつきます。その一番の差がつくポイントが「問題の前提条件をきちんと記述できるかどうか」です。
どういうことかあなたはわかりますか?例題を出しますので、この問題で一緒に考えてみましょう。
この問題、ある程度物理を勉強してきた人なら力学的エネルギー保存の法則で解けるということはパッと見ただけでわかると思います。(まだ勉強していない人はごめんなさい。力学的エネルギー保存の法則の詳しい解説記事は近々でアップ予定です。)
これを記述式問題だとして回答する時、得点の取れる記述と取れない記述で一番差がつくのが回答の書き出し部分です。
例えばこちらはダメな回答文の書き出し方です。
こう言った回答は答えが合っているならバツにはならないでしょうが、多くの記述式問題で減点の対象になります。なぜこの回答はダメなのか、その理由がわかりますか?なぜならこの回答には力学的エネルギー保存の法則が使える前提条件が書かれていないからです。
力学的エネルギー保存則を使うには「保存力だけが仕事をする時」という条件が必要です(まだ力学的エネルギー保存則を勉強していない受験生は「そういうもんなんだー」と思ってください)。上記の回答にはその条件が書かれていませんから、減点の対象になってしまいます。
上記の問題の、正しい記述式の書き出し方はこちら。
これが正解です。
「細かいなー!別に書かなくてもいいじゃん!」なんて思いましたか?ですが記述式問題はたとえ出た答えが同じでも、こういった記述のあるなしを添削官である教授はきちんと見ています。
物理は物事のルールを説明する学問。なぜその現象が起きるのか、なぜ物体はそのように動くのかを根拠を持って説明できないといけません。公式を使える前提条件を書かないと「公式を覚えただけで本質を理解していないんだな」と教授に判断されてしまいます。
あなたが添削官だったら、前述のただ公式の名前だけが書かれた回答と、なぜその公式が使えるのかをきちんと説明された根拠のある回答だったら、後述の回答を書いた受験生の方を合格にしたいと思うはずです。
記述式問題では必ず公式が使える根拠を書きましょう。こういった前提条件はそれぞれの公式ごとに必ず設定されていますから、漏れの無いようにきちんと覚えることも大切です。
例えば
- 力学的エネルギーが保存されるのは保存力が仕事をするときのみ
- 物体が自由落下するのは空気抵抗が無視できるとき
- 仕事が経路によらず一定になるのは摩擦や空気抵抗が働かない場合だけ
など。
こういった細かい前提条件をきちんと理解しているか、回答にきちんと記述できるかどうかで記述式問題の得点は左右されますから、しっかりと覚えるようすることをオススメします。前提条件をきちんと覚えれば、どの公式をどのタイミングで使えるかがきちんと理解できますからケアレスミスも減りますよ。
差がつくポイント2:物理量の定義を正しく理解する
もう一つのポイントが物理量の定義を正しく理解できているかということ。物理量の定義を正しく理解できているか?またその定義を正しく理解して正しく使えているかでも、記述式問題の得点は大きく変わってきます。
例えば
「速さ」と「速度」の違いは?
「重力」と「重さ」の違いは?
これらの違い、あなたは説明できるでしょうか?同じように見えるこれらの単語も、実は物理的には全く違う意味で使われます。こういった間違いやすい物理量の定義をきちんと正しい使い方ができているかどうかでも、記述式問題の得点が変わってきます。
ここで差がつく!知っておきたい物理量の違い!
これが全てではありませんが、混同しやすい物理量をいくつかピックアップしました。
ここで紹介する物理量の違いを理解しておくだけでも、記述式問題で人と差がつく回答がかけるようになるはずです。
「方向」と「向き」
方向と向き、この二つを間違えて理解している人はかなり多いと思います。それぞれの定義は以下の通り。
方向 ・・・座標上のある2点を結んだ直線
向き ・・・座標上のベクトルの位置
これ、ちょっとわかりにくいと思います。
どういうことかというと、物理で扱う物体は必ず何かしらの座標の上にいます。「座標上のどの位置にいてどんな状態の変化が起きるか」を表すのですが、この時に方向という考え方を使います。
例えば地面を並行に運動する物体は水平方向、自由落下する物体は鉛直方向といった表現をして「ある直線上を運動していますよ」ということを表します。常に何かしらの直線上=方向を運動しているわけです。それに対して向きは「ある始点から一方に向かって進行する状態=ベクトル」を表します。
例えば「重力」という単語を説明するときは「地球の重力は鉛直方向に働き、向きは下向きである」というように、方向と向きを使いわけるのが正しい使い方です。
いくつか例を挙げると
【例1】
(間違った使い方)左向き
(正しい使い方)水平方向に左向き
【例2】
(間違った使い方)下向き
(正しい使い方)鉛直方向に下向き
【例3】
(間違った使い方)東に2kmの向き
(正しい使い方)東西方向に東向き2km
たとえば正の向きを決めるときは右向きを正、下向きを正、といった表現ではなく「水平方向に右向きを正」「鉛直方向に下向きを正」というように方向と向きをセットで記述するのが一般的です。
「距離」と「変位」
変位 ・・・物体の座標上の位置がどれだけ変化したかを表す量(ベクトル)
距離 ・・・変位のベクトルの大きさ
「速さ」と「速度」
速度 ・・・単位時間あたりの変位の変化量(ベクトル)
速さ ・・・速度のベクトルの大きさ
「重さ」と「重力」
重力 ・・・地球が物体を引き寄せる力(ベクトル)
重さ ・・・重力のベクトルの大きさ
ベクトルとスカラーを混同しないこと
上記の間違いやすい物理量は全て、ベクトルとスカラーを混同してしまうため間違えやすくなっています。ベクトルとスカラーを混同すると、似たような物理量を混同してしまう場合が多いです。
「ベクトルとスカラーって何?」という方はこちらの記事に詳しく解説していますので、ぜひ合わせて読んでおいてください。
◆合わせて読みたい!
まとめ
大事なポイントをまとめると
- 公式の根拠を必ず書く
- 混同しやすい物理量の違いを理解する
以上が記述式問題の得点を最大限までアップさせる重要な2つのポイントです。
記述式問題が解けるようになると物理が一気に得意科目になりますので、ぜひマスターしましょう。
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